よく聞くという技術
「聞く」と「聴く」は違う、と講義で話した。前者は音が耳に入ること。後者は音に耳を澄ますこと。英語ならhearとlisten。研究者に必要なのは後者だ——という話を毎年しているのだが、今年は学生に鋭い質問をもらった。「先生、聴きすぎるとどうなるんですか」
いい質問だったので正直に答えた。聴きすぎると、聞こえないはずのものが聞こえ始める。冷蔵庫の唸りの中に旋律を、雨音の中に拍子を、無音の中に耳鳴りを。人間の聴覚系は検出器であると同時に発生器でもあって、入力が足りないと自分で作り始める。だから聴く技術の最後の一項は「聴くのをやめる技術」だ。
そこまで話して、最近の自分がヘッドホンを外す時刻を思い出し、少し反省した。(相原)