けものみち、おとみち
山にけものみちがあるように、海には「おとみち」がある。水温と圧力の釣り合いが作る音の通り道——SOFARチャネルだ。深度千m前後に横たわるこの見えない回廊に入った音は、ほとんど減衰せずに水平方向へ数千kmを旅する。鯨たちはこの道を知っていて、大洋の反対側の仲間と歌を交わす。
第二次大戦中、この道は撃墜パイロットの救難信号にも使われた。小さな爆雷を海に落とすと、音がおとみちを通って数千km先の聴音局に届く。音の道は、命の道でもあった。
講義でこの話をすると、必ず誰かが訊く。「道があるなら、渋滞や迷子もあるんですか」。あるかもしれない。深い場所の音ほど、遠くまで、長く残る。もしかすると我々がまだ受け取っていない音が、今もどこかの道を歩いている最中なのかもしれない。(相原)